80代の和子さん(仮名)
介護保険の訪問介護サービスを利用し、ヘルパーさんに来てもらっています。
ヘルパーさんを派遣している訪問介護事業所は、家族への報告のために連絡ノートを用意してくれていて、介護の内容や和子さんの様子をノートに書いてくれます。
ところで、この連絡ノートは普通の紙のノートです。
ここで困ったことが少し…
和子さん、一人暮らしなんです。
紙のノートに家族宛のメッセージが書いてあっても、そのノートをその日に家族が読むのは基本的に無理。
頻繁に家族が和子さん宅に行くこともなかなかできないので、メッセージが伝わるのはかなり先になってしまうことも多々。
「…がなくなりそうです。用意してください。」とか書いてあっても、間に合わないことになります。
まあ、実は在庫管理アプリも既に作ってあり、食品や日用品の在庫に関しては、和子さん宅に行ったときに徹底的に在庫を数えて管理し、家族で情報共有しているのでめったに困ることはないのですが…
こちらからヘルパーさんに伝えたいことがあっても、連絡ノートを書きに行くわけにも行かないので介護事業所に電話をするしかありません。
これ、今どき、なんとかならないのでしょうか?
そんな訳無いですよね。インターネットがあって、これだけデジタル機器が普及しているのですから。
そこで、連絡ノートのデジタル化を考えることにしました。
でも、いろいろ悩まなければならないことがあるんですよね。どの方法を使おうかって。
とりあえず、みんな大好きLINEでグループを作るなんて言うのが最初に頭に浮かぶ人が多いかもしれませんが、LINEを使っていない人だって一応います。
それに、この手のインスタントメッセンジャーは、チャットには向いているけど、報告とか、情報の管理には向かないですね。
そのときに行われた会話に焦点が合うツールなので、時間が経って大切な情報が埋もれてしまうと探すのがとても面倒。
では、Google のサービスを使うのはどうでしょう。
このブログでも、以前、Googleフォームを使って通院の報告を行い、Googleドキュメントで通院記録を自動的に作成する話を書いた事があります。
こういうシステムは、Google Apps Script というプログラミング言語を使える人なら、割とお手軽につくる事ができます。
今回の、連絡ノートも同じようにして割と簡単に作ることができるのですが、アカウントの問題が…
家族側はみんな Googleアカウントを持っていますが、ヘルパーさんの中には Googleアカウントを持っていない人もいます。また、介護事業所のスタッフとして訪問介護に来ているわけで、たとえ Googleアカウントを持っていたとしても個人のアカウントを使うわけには行かないという事情もあります。
アカウントの問題って結構ハードルになるんですよね。
更に言うと、そもそもアカントって何?というところにもハードルがあるんです。
よく、「スマホじゃなくてパソコンに送って」とか「パソコンじゃなくてスマホに送って」と言ってる人がいますよね。
パソコンやスマホを使っていても、こういう認識の人多いと思います。
「スマホに送る」とか「パソコンに送る」じゃなくて「このアカウントに送って」とか「あっちのアカウントに送って」ならいいんですけどね。
こういう認識の人にアカウントの説明をしてもなかなか理解してもらえない。
インターネットで稼働するサイトやシステムはデフォルトで全世界公開状態です。原則としてだれでも閲覧できるし、誰からの情報でも受取ります。
限られた人だけしかアクセスできないようにするには、サイトやシステムにログイン機構を設置する必要があります。そして、ユーザーにアカウントを発行して、アカウントを持っている人しかログインできないようにする必要があるわけですね。
多くの人がスマホで LINEを当たり前のように使ってメッセージを送ったり写真を送ったりしていますが、自分が送るメッセージや写真は直接相手のスマホへ送られていると思っている人も多いようです。
完全な間違いとまでは言わないけれど、かなり違う。郵便とは違うのです。
直接相手に届けられるのではないのです。
例えばあなたが LINEアプリを使って友達にメッセージを送るとき、そのメッセージは LINEというサービスを運営している会社が管理しているコンピュータに送られ、そのコンピュータに格納、保存されます。
そして、メッセージを受け取る人が使っているスマホは、LINEというサービスを運営している会社が管理しているコンピュータに格納、保存されているそのメッセージを自動的に取得し、スマホに表示します。
「取得」と言ったことからも想像できると思いますが、メッセージを受け取る人のスマホが、自動的に LINEというサービスを運営している会社が管理しているコンピュータにアスセスし、メッセージを見に行っているわけですね。(push通知がどうのこうのとか、webhook がどうのこうのとか、本当はもっときちんと説明するべきかもしれませんが。)
ところで、ここで出てきた、サービスを運営・提供している会社が管理しているコンピュータ(がサービスを提供するために使っているソフトウェア)がサーバーと呼ばれるものです。
ユーザーが送信したメッセージは、全部そのサービスを運営している会社が管理しているコンピュータに格納、保存されていて、ユーザーはそれをスマホなどで見に行いきます。
誰でも見られるようにするわけにはいかないので、ログインシステムが備わっていて、アカウントを持っている人しか見られないようにしているわけです。
というわけで、とにかく、どんなシステムやサービスを使うかに関わらず、限定した人しか見られないようにするにはログインシステムとアカウントが必要になるということですね。
で、このことがなかなか理解してもらえない。
どこかに良いサービスがあって、それが今回の目的に使えるとしても、ヘルパーさんたちにそのサービスのアカウントをあらたに作ってもらう(つまりそのサービスに登録してもらう)のは現実的ではありません。(さらに、利用にお金がかかるようだったらもう無理でしょう。)
今回は、もう、自前でシステムを構築することにしました。
アカウントの発行も自前で行います。身内とヘルパーさんたちだけで使う簡易なシステムで、管理も自分で行うので、ユーザー名とパスワードによる古典的な認証方法を使います。
結局、介護サービスを利用する側でプログラミングしてデジタル連絡ノートを作り、インターネット上にコンピュータを用意し、そこでWebアプリとして稼働させることにしたのです。つまり、デジタル連絡ノートのサービス提供者は自分です。介護サービスを受けている人の家族の一人がサービス提供をするわけです。
ところで、このアプリを稼働させるためには、インターネット上につながっていてサービスを提供できるコンピュータが必要です。
自分の手元にあるパソコンとかではなくて、どこかのデータセンターにあるコンピュータです。
そのようなものを利用できるサービスは数多くあり、その一つがレンタルサーバーと呼ばれているものです。
ネット検索で「レンタルサーバー」と入れて調べてみるとわかりますが、数多くの事業者がサービスとして提供しています。無料で借りられるものもいくつかありますし、月々数百円程度で借りられるものもあります。利用の申込みも難しくはありません。ネットショッピングができる人やネットで車の保険の申込みができるようであれば大丈夫です。ただ、知識がある程度無いと、どれにすればよいのか、選ぶのがちょっとむずかしいかもしれませんね。
今回のシステムを作るにあたっては、SSHで接続できるレンタルサーバーを借りるというのが一つのポイントです。このことを含めて、いずれ改めてどこかで書いておこうと思います。
ところで、ウェブアプリという言葉が出てきましたね。
アプリというと、Androidスマホを使っている人だと Google Play とか、iPhone を使っている人だと App Store を真っ先に思い浮かべる事が多いかもしれませんね。そして、インストールして使うんでしょ?って思ったかもしれません。
でも、ウェブアプリってそういうのじゃないんです。インストールする必要ないんです。
ウェブアプリを使う人は、自分のスマホやパソコンに何も入れなくていいんです。
ウェブアプリって、ウェブサイトなんです。
どのスマホやパソコンにもインターネットブラウザと呼ばれるソフトウェアがはじめから入っています。そう、あなたがインターネットを閲覧するときに(意識的にせよ無意識にせよ)使っているやつです。Android スマホの人だったら多分 chrome というのを使っている人が一番多くて、 iPhone の人だったら多分 safari というのを使っている人が一番多いのだと思います。
ウェブアプリはウェブサイトなので、インターネットブラウザがあれば十分なんです。インターネットブラウザでアクセスして使うだけ。ユーザーは何もインストールする必要なし。ユーザーにとってはとても簡単ですよね。
というわけで、介護サービスを利用する側の人が、アプリを開発します。
次回の記事では、全体像について書こうと思います。



